いよいよ出航

 雪はやんで、雲間から太陽が顔を出してきた。いぜんとして寒いが、これぐらいなら、出航できるかもしれない。ボーマン氏は「福音丸」のエンジン・テストをしてみようと思い、車を港に走らせた。少しの間試運転して、港の外に出てみた。海面はおだやかである。 ボート・ハウスに行って、今晩出港してもいいかと尋ねてみた。係員は気象計器のデータをあれこれ調べてから、今晩の気象情況は良好だから、出航さしつかえないと答えた。 五時三十分、「福音丸」は岸壁を離れた。狭いキャビンに乗り合わせているのは、ボーマン夫妻と、生後六か月の赤ん坊を含む四人の子どもたち。二人の日本人ヘルパーと、岩国基地に勤務する二人のクリスチャンの軍人である。 修学旅行に出かける少年たちのように、一同ははしゃぎ、声をはりあげて賛美歌をうたった。特にボーマン氏の子どもたちは、嬉しさを隠すことができず、手を打ち、踊りあがった。 出港した時に、あたりは暗くなり始めていた。時計の針が六時をさすころになると、すっかり夕闇におおわれた。そして、恐ろしい出来事は、すぐ目の前に迫っていた。